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あんみつが食べたい・・・。
という衝動。
つづきです。
連休の初日はあいにくの空模様で
結局、一度も外に出る事は無かった。
昼、というか、午後に目が覚めてからも
何をする訳でもなくただただ怠惰に過ごし
空腹を感じたところで出前をとり
持ち帰った書類と格闘する火村を尻目に
積読の本に手を伸ばしたり、猫とじゃれたり。
そうして過ごす休日というのも案外いいものだ。
まったりと何もしない一日。
そんな一日を満喫し、いつもより長めの風呂に浸かり
軽く食事をしつつ、ワインを傾ける。
会話はあるような、ないような。
と。
「そういや、買い物とかはええの?」
飲みながら、なんとなしにTVを眺めていると
唐突にアリスがそう切り出した。
おそらく、さきほど映っていた阪急あたりの
特集を見て思ったのだろう。
ここで意味する買い物、とは服飾関係か。
「ああ、別に急ぎでも無いが夏物とか見てもいいかもな」
今年は冬が長かったせいだろうか。
急に例年並みの気温に戻り、いつもより
身体が暑さになれない気がする。
沖縄では早くも梅雨入りの時期なのだから
じめじめと暑さを感じるのは当たり前なのだが
先月まで冬物に近い服を着ていたせいか
薄手の服が出そろっていないのだ。
「さっき見たけど、夏物のスーツとかもてかてかやったで。
いい加減変えた方がええんとちゃう?」
「あ~、そういやそうだった」
毎日スーツを着ていると、いつの間にか見慣れてしまって
草臥れていようがてかりが出始めようがあまり
気にならないのかもしれない。
普段、あまりスーツを着る機会の無いアリスの方が
見慣れていない分、そういった細部に気が付き易いのだろう。
ここ数年はアリスから取り換え時を切りだされる事が
ほとんどだったかもしれない。
「やろ?今日はざんざんぶりやったけど、明日辺りには
少し落ち着くんやないの。ちょっと買い物でも行こうや」
TVを弄りデータを確認すると確かに
今日よりは天候も落ち着くらしい。
「じゃ、明日はショッピングな」
その一言で出掛けることになった。
「休みの日とはいえ、連休やからあんまし混んでないと
思っとったけど、なんや。結構な人出やな」
夕飯は飲みながら美味いもんでも食おう、というアリスの
申し出に移動は公共の交通機関を使う。
このところ、車での外出が多かったせいもあり
二人で並んで乗る電車は結構新鮮だったり。
じめじめと湿気が多いせいで蒸し暑い車内で
ジャケットを脱いだ火村は昔とあまり変わらない
体型で黒っぽいシャツを着こなしている。
頭の先から足の先まで、黒白という碁石ファッションなのに
なんや、なんでそう決まっとんねん。
向かいに座った女性がちらちらと視線を向けるのも
どうしても横目に見てしまうのも、癪に障る。
家にいる時とは違うから、かもしれない。
ちょっとパリっとするだけでこうも違うなんて
なんや、アレやな。
そんな風に思いながらホームへと降りる。
人でごった返すコンコースを抜け
冷房の効いた店内に入るとそれだけで
なんだか酷く疲れた気がする。
これもそれも皆火村のせいや。
人ごみを抜けるだけなのに、妙な事しよるし。
さりげなく腰に手を添えて軌道を修正したり
大げさで無い程度に肩ひとつ前に居て
人波から庇ったりするなんて。
普段はあまり感じないのに、こうして偶に感じる
火村の自然なたち振る舞いにアリスはいつだって
振りまわされてしまう。
気張る必要なんてない。
そんな事は分かっている。
いまさらどぎまぎする事だっておかしいと分かってる。
アリスだから、特別なのではないという事も
別にレディ扱いしているわけではないという事も
頭では分かっているのに、やっぱりどこか心の奥が
震えてしまうのだ。
当たり前に気を配れる男なのだと思う。
ただ、それを普段は見せないだけなのだという事も。
それも、火村自身が意図して見せないのだという事も。
「やっぱりこの時期はじめじめして暑いな」
そう言っておよそ暑苦しさを感じさせない男が
振り返るから、考え事をしていたアリスは
その視線をばっちり、受けてしまった。
「アリス?」
そりゃもう、ばっちりと。
途端、ぼん、と音でもしそうなほど頬が赤らむのを
自覚して更に顔が熱くなる。
じっとその背中を見つめていたなんて
あまつさえ、目を合わせた途端赤面するなんて
めっちゃ恥ずかし――。
「うっさい、いくで」
ごまかせるとは思わないが、それでも
暑いねん、とか言いながら火村を追い越して
エスカレーターへと向かうと、
なんだか嫌な気配を背後に漂わせながらも
何も言わず付いてくる。
そんな湿気にも似た感覚を張り付かせて
アリスはメンズフロアへと急いだ。
