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先に謝っときます。
いえ。謝らせて下さい。
ゴメンナサイ。
さ、続きをどうぞ。
>>>>
歳がいも無く、なんて解っている。
理由を言ったら?たぶん、呆れるだろう。いや…たぶん、では無い。確実に呆れた様に苦笑するかバカにしたように笑い転げるだろうな。
なんで今更、だってこと。
だが…そうしたいと思ったのは俺で、消えることなく脳裏に焼き付いたままあの日の笑顔が、いつまでも俺の期待値を下げる事を赦さない。
そう…期待しているのだろう。
いつか見たあの日の笑顔と同じ、柔らかく温かい笑顔を向けてくれる事を願っている。
だからいつもなら少々高い敷居も自ら望んで跨いだ。
その日から2週間が経とうかというある昼下がり。授業の合間、アリスが研究室を訪れていた午後、電話があった。待ち望んでいた知らせだった。いつもの様に掛けなおしてもよかったのに一日も早く、と願っていた俺はその電話を…受けたのだ。もちろん、口調は抑え目にあくまでも事務的に受けた。
『では…おまちしておりますね』
「ああ、そうですね。では…」
待っていた内容の知らせに少々浮かれていたのかもしれない。無意識に口の端が上がっていたのだろう、ぽかんとした、どこか驚いた様な顔をしてアリスが見つめているのに気が付いた時。少しだけ慌てた俺は視線をすっと逸らしてしまっていた。
ちょっとあからさま過ぎたか…?
そうも思ったが、逸らしてしまった以上無かった事にも出来ず、そのまま隠した笑みを床に落として再び視線を向けた時には…アリスがマグを持ったままよろける姿を晒している処だった。
頭の隅で思い描いていた自分の邪とも言える考えを、まるで見透かして驚いた様なアリスの表情とタイミングにいつも以上に動揺していたのは確かだった。咄嗟に逸らした視線、動揺から発する事無かった言葉。
なんとなく…気不味かったのに、取り繕うことなくその場は流れてしまった。
そうして約束をした昨日をどこか浮かれた心で過ごして…今日はアリスと逢う約束をしている。
季節も少し合わない気がするが…それでも明るめの色を選んだから未だマシだろうと思えた。柄も同じ、いつかと変わらない。変わったのは身体に吸いつく様に細くなったデザインと…隠しようのない、歳月を経た姿。
「…歳をとったってこと、か」
変わっていく物がある一方で変わらない物だってある。
少々本は増えたが間取りは変わらない見慣れた部屋、常に纏っている紫煙の香り。そして相変わらず傍に居る…アリス。
初々しいとは言えない関係でソレを望むのは間違っているかもしれない。けれど、望まずには居られなかった、単なる思いつき。それでもいいと思った。
心の中、隅で言い訳をしながら磨いておいた明るいショートブーツに足を延ばすと柔らかな光が満ちる世界へと飛び込んでいく。待っているのは…アリスだ。そう思うだけで心が弾む。
◇◇◇◇◇
待ち合わせは珍しく駅前だった。
久しぶりに晴れ渡った空の下、なるべく日陰になっている場所を選んだ。先に着いたのは私だった。結局、あまり眠る事が出来ずに迎えた当日。寝不足のまま春とはいえ遮るモノのない日差しの中で立っているのは無謀だと思ったから広場から少しずれてはいるけれど、新緑が腕を伸ばした陰へと滑り込む。
見上げた時計台の時刻は約束の時間、少し前。
レールに寄りかかり着信を確認するために取りだした携帯を覗き込んでみるも新しい着信は無く、開いたメールボックスに表示されているのは朝に送られてきた短いメッセージだけ。
『予定通りに』
付き合いが長くなればなるほど反比例するようにメールは短くなっていくのかもしれない。それは長い文章を打つ必要が減るからだと思う。必要、無い。会話にしても同じだが、多くを語らずとも意味が意思が伝わってしまう事が多い。足らない部分は長い付き合いが齎す相手の行動予想によって補われてしまうから。
そう、それくらい長い間私たちは共に過ごしてきた。
想い出も、友人も気持ちすら…重なり合うほどに。
「…腐れ縁、やんな」
零れて堕ちた言葉は熱さを含んだアスファルトが吸収していく。それをじっと見つめたまま俯いた私に…届いた声に顔を上げる。それは…とっくに耳馴染みとなった低音。
「アリス、待たせたか?」
「…ひむ、ら?」
目の前に立つ男の姿に…いつかの光景が蘇り、脳裏に焼き付いたまま思い出に閉じ込めた彼がフラッシュバックする。
薫る春の風、舞う桜。
何時かの春。
そして…唐突に理解したのだ。
「…ああ、あの時の」
明るめのグレー、均整のとれたがっちりとした体躯に馴染む細身のシルエット。いつもなら首元で緩んでだらしなく見えるタイも、胸元を狭くしているベストに抑えられて収まりがいいようだ。
眩しささえ覚える、チョークストライプの…スリーピース。
卒業式、こぞって黒を纏う学生の中でひと際目を惹いたのはハイクラスの明るいスーツに身を包んだ火村で、卒業しても未だ学生だからという理由で遊び心に満たされたセレクトを、私は呆れた様に笑いながらも…たぶんきっと、見惚れていた。
覚えている。
同性なのに、親友なのに、そういったつまらない事など飛び越して私は隣に立つ男に視線を根こそぎ奪われていたんだ。
『へぇ、おしゃれなスーツやな。…キミに、よく似合うとるよ。シュッとしてカッコ、ええ』
思わず細めた瞳の奥からじっと見つめていた。はにかんだ様に口の端を釣り上げる仕草すらどうしようもなく決まって居て、こっちまで気恥ずかしくてつられる様に笑った。
それから…就職をして忙しくしていた私はあまり火村とも逢う機会が無く、その時以来彼がスリーピースを纏っている姿は見た事が無い。…見たいと、思ったことはあった。だからそれとなく訊いたりもした。『あの日のスーツはどうしたのか』と。また、見たかったから出版社を辞め夕陽丘の住人になり学生の頃の様に頻繁に会うだけの時間が取れる様になった頃。変わらずに傍に居られる事が嬉しくて…でも、思い出の中のキミに心を奪われたままで。
『あ?ああ、あのグレーのヤツか?さすがに今は着れないだろ、デザインも古いしな。そもそも…随分前だぜ?』
懐かしそうに空を見つめ、半ば呆れも含んで聴こえた火村の返事に、曖昧に笑って返す事しか出来なかった。今、隣に居るのは紛れも無く火村だ。本来ならばとっくに疎遠になって居てもおかしくない、ただの大学時代の友人に過ぎない。それでも、私たちはこうして傍に居る。
それだけで十分じゃないか。
脳裏に焼きつく位魅了された姿とはいえ、思い出までも、と願うのは望むのは…欲張りだろう?
その…願っていた何時かの彼が、目の前に居た。
「…やっぱり、似合うとる」
「覚えてたのか、アリス」
照れくさそうに笑う火村は確かにあの日、私の隣に居た彼の筈なのに…経て来た年月とよりシャープになった輪郭がまるで別人の雰囲気を伝えていた。頬は以前よりもこけたかもしれない、その分目元は穏やかになってきたと思う。黒く学生の頃はいつも長めだった髪も、最近は短めで白いモノが混じりはじめている。
「いつか言ってたろ?あのスーツはどうしたかって。急に思いだしてな、何着か新調する中に同じような柄を入れてみたんだ。昨日仕上がったばかり、だぜ」
「…ほんま、煙草くさない」
くだらなそうに軽口を叩いてはみたけれど、内心ではかなりどきまぎ、していたんだと思う。自分がさっきまでおかしい位に悩んでいた“火村の約束”に激しい誤解があった事を声にして漏らしていたから。
「なんや、昨日の3Pってスリーピースの事やったんか。考えすぎ、やったん…」
「…は?なんだって、アリス」
長い付き合いだ。言わなくても解る事が多い。思わず口をついて出た私の言葉、なんでもないねん、と言い繕ってみてもソレを赦して見逃す火村では無い事くらい知っている。火村だって、私が漏らしたほんの僅かな情報だけできっと他人より多くの状況を読み取ったに違いないのだ。
「確か昨日は…」
きらりと、瞳の奥をきらめかせ口火を切った火村の袖を引きつつ、長くなりそうな追求を逃れたくて一歩踏み出した。頼むからもう少し、思い出よりも眩しいキミの姿に浸らせてくれないだろうか。
キミの声は嫌いじゃない。でも今は…。
『黙ってろ』
>>>以上。本当はK也さんに捧げられた素敵火村(本当か…?)の御姿へのオマージュにするつもりが
白…、白は…絶対かっこよくな…(以下自主規制)
だってさ。
あくまでも「かっこいい火村准、スリーピースを着せよう!」って趣旨だったような気が…。
自ら率先しておとしめるのは…いかがなものかな、と。
っていうか、既にこの話はダメな気がする…でもどうしても書きたかったんだな。
「スリーピースの会、怪しげなバナ弄ろう作戦」
いや、かっこいいよ?かっこいいさ、全力で。
絶対、素で「俺にほれなおすなよ、アリス」とか言ってるんだよ、白火村。
そりゃ、アリスの顔だって雪崩を起こすよ…凄いよ、凄い。
でも、好き。
火村准の手帳に書かれていた文字は各自想像よろしくです。
おっちょこちょいなアリス、必死さが可愛いと思う。
アリスだから赦されるんだよね、きっと。おっちょこちょいな火村…必死な火村。
痛すぎる。
ということで、着せたスーツの柄はナ●メ様とH香様の素敵な火村より頂きです。
他にもスリーピースな火村先生を描いて下さった方が居るというタレこみがあったので
うきうきしながらがさ入れに行ってきます。下さい。←さらっと言ったYO。
