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「AI」 の story を聞いて涙が溢れる。


少しでも、少しでも、

何も、出来ないのかもしれないけれど。



ほんの少しの、憩いになればと思います。


猫アリス、続きです。


ことん。

ぎっ。

 

かた。

 


みしり。


うとうとと半分だけ覚醒した意識の片隅で
生活の音が響いていた。

背中が少しだけ、涼しい気がして
アリスは丸めた身体を一層、縮こませた。

―寒い…。


パチン。

閉じた瞼の上からうっすらと灯りが忍び込む。

―ああ、誰かが灯りを付けたんや。

意識だけが覚醒した状態で、耳に届く
音を追っていく。

 

それでも、未だ。

動き出す気にはならない。

 

からり。

続いてふすまを開けた音。


ふう…。


溜息?


―火村、帰ってきたんやな…。


ぼんやり、そう思った。

 

「…お?」


気配だけは感じているけれど、どうにも
身体がついていかない。そんな半覚醒状態で
足音と体温が近づいてくるのを意識で追う。


さわり。

少し骨ばった指先が額のあたりを撫ぜる
感覚に、一気に意識が浮上した。

う~、と伸びをして前足を付く。


「なんだ、お前…。ウリの友達か?」

「な~」

―おかえり、火村。

くあ、と大きな欠伸をして言った筈の言葉は
相変わらず「な行」を紡ぐばかり。

―ああ、まだ猫なんや。


丸まって眠っていたせいですっかり凝り固まった
背をしなやかに伸ばし、ふるふると頭を振った。

 

「にぁ」

「ああ、すまないな。起しちまったか?」

丸まっていた炬燵布団がほんのりと温かくて
動くのもなんだかもったいなくて、そのまま
ちょこんと座り目線を上げて見上げる火村は
背のあたりを撫ぜながら眼を細めて微笑んでいる。


―なんや、こいつ。こんな貌もするんか。


見慣れている友人の顔を下から見上げる、という
状況も滅多にないが、それ以上に
優しさを隠さずに微笑む火村の顔は見た事がない。


ゆっくりと撫ぜる掌は存外優しく、温かくて。

―なんか、変な気分やな…。

じっと見つめたまま、動かない私を一撫ぜすると
やおら立ち上がった火村は既に緩んだタイを
しゅ、とひきぬくと丁寧にハンガーに掛け、
ジャケットを脱いで腕まくりをしている。

―ああ、手を洗うんか。

 

一連の動きを追って自然と身体が動いた。
台所へ向かう男の背を追いつつ、ああ、と
思いついた。何故勝手に足が後を追うのか?


台所へ向かい、手を洗う火村の背中を追いかけた訳。
ずっと眠っていたから、身体が渇きを訴えているのだ。


―喉、乾いた。

「な゛~」

「ん?どうした…?ああ、そうか。ちょっと待てよ」

 

言いたい事が言えず、漏れるな行に仕方なく
私は火村の足元で身体を擦りつけるようにして
訴えてみた。喉が渇いた、の。たった一言すら
伝える事が出来ない。


もしかしたら、めちゃくちゃ不便なのではないだろうか。


頭をよぎる考えは、しかし、杞憂なのだと知る。

「ほら。喉、乾いたんだろう?」

ことん、と。


目の前に置かれたのは、皿いっぱいに注がれた冷たい水。

もちろん、手にとって飲む事なぞ出来ず、
見よう見まねで舌を出し、舐めるように啜った。


「…旨いか?」
「にぃ」

―おかげさんで。

猫と意思疎通が出来るらしい友人の
これまた知らない一面をみて
なんだか非常にこそばゆい。


我ながら実に器用に水を掬うと、喉を潤し
蹲る様にして毛づくろいをした。

―ぺ、ぺ。意外と毛が入る!

でも、止められないのが不思議だった。

 

 


人の気配がする、というのはこんなにも温かい
ものなのだろうか、と思う。

猫になっているから、かもしれないけれど
座って何やら書き物をしている火村の
隣に蹲るだけで、こんなにも温かい。

時折、聞こえる音も、ふっと感じる気配も。

昼寝(?)をしているときに聞こえた遠くの
生活音より、近くで、肌で感じる音の方が
遙かに…。

―安心、する。

「気持ちのいい肌さわりだなぁ、お前は」


そして、伸ばされる無骨な掌も。
見慣れない、友人の微笑みも。

優しい、声音も。


どれをとっても、居心地の良い物だ。


昼間あれだけ眠っていたにも関わらず、
大きな掌で撫ぜられ、耳馴染みのよいバリトンが
身体を包みこむ度、あまりの心地よさに
うとうとと睡微んでしまいそうになる。


「茶色…、ずいぶんと珍しい濃さだが、なんでだろうな。
見慣れた色、なのは。模様もちょっと見ないな…」


降り注ぐ声は、間違いなく火村のモノなのに。


「ああ、髪質まで似ているのか?ふん。不思議だが…
悪くないよな。まるで…、頭を撫ぜている気分になる」

優しい、愛おしさをまで滲ませた台詞。

人間の自分には掛けられない言葉の数々に
どこかくすぐったさを感じながらも
ほわん、とあったかい気持ちになってしまう。

「ん~」

気持ちよさに思わず、声が漏れた。

「なんだ、似ているってのがわかったのか?
ああ、似ているのはちょっと変わった作家先生になんだよ」

―ん?

思いもよらない火村の言葉に、疑問が
身体に出たらしい。ぴくん、と片耳が動き
それを目ざとく見つけた火村が附け根を
さわさわと撫ぜて来る。

―ああ、そこも気持ちええ…。

つい、うっとりとしてしまう。

「突然来たかと思えば、突然居なくなる。
まあ、そんなのはずっと前からざらなんだが、
どうしてだろうな。どうしても…」


冷たく突き放す事ができねぇ。


独り語に近い火村の独白は、指の動きとともに
止まる事をしないで降り注ぐ。

指は耳の付け根から額へかけて滑っていく。

じんわり、と。


―あったかい。

「長い、付き合いなんだが…これがな。
どうしてだか、鈍いヤツで困るな」


「むぁ?」

寝ぼけたように出た変な鳴き声に上の方から
くつくつと笑う声が聞こえる。


「なんだ、アリスみたいだな、お前。
どんなに大切に思っていようが、アイツは
きっと、気が付きもしないで笑ってるんだろうよ。
いっそ、離れてしまえればいいのに、なんてな。
絶対に出来ない癖に、手が…届きそうで届かない
もどかしさが、偶に…偶に、嫌になる位…」

そわり、そわり。


掌はどこまでも優しい。

「それでも、な。アイツの傍に、居たいなんて思う
俺は、大概、女々しいのかもしれないな。
アイツは、…アリスは、きっと気が付かないのにな」

当たり前か、と。

最後は小さく小さくなってしまった声は
なんだかとても、寂しそうに聞こえる。

「気が付かないからって、伝えたところで
友人としてすら傍に居られなくなるのは
火を見るより明らかだしな」

だから、仕方ねぇんだ、なんて。

火村にしては珍しく弱気な言い草で。


いつの間にか背中を撫ぜていた掌は止まり
言葉がだんだん小さくなっていく。

丸めた背中に、火村の手を感じる。

 

じんじん。


あったかさだけ、伝わってきて…
それは堪らなく、温かくて。


ああ、まるで。


昔から変わらず私を包みこんでいた
火村の、

眼差しのようで。


―あったかい。


でも、と思う。


何を言おうが、何をしようが、
いつだって、結局、温かかった。

その冷めない温もりに、浸かって居たかったのは


―私の方だったのかもな、火村。


「…なぁ」

小さな身体には過ぎる、体温なのだろうか。
心地よさが、徐々に世界を遠くする。

何をか、伝えたいと急く心をあざ笑うかのように
それでも、
辛うじて小さく鳴くと、アリスは意識を手放した。

 


pipipipipipipi…

 

「ん~…」


どこか遠くで携帯が鳴っている。

小さいながらも耳障りな音の羅列に、アリスは
低く唸ると手を伸ばした。


「あ~?」

時刻は、10時。

いつもの起床時間が10時と言うのもおかしな話だが
セットしっぱなしの携帯アラームは
間違いなく、10時を示していた。

「…ねみ」

ごろごろと寝がえりを打ってみる。

手を伸ばし、天井を仰ぎ見て、指を開いた。

「…戻っとる」


部屋は相変わらず静かで、差し込む細い光が
昼間の温かさを滲ませていた。

「…夢」

ぼわん、と頬が紅潮する。

今自分が見ていたのは、間違いなく夢だと思う。
それなのに、耳に残るのは間違いなく火村のモノで
背中に残る温かさは、優しさは、載せられていた
掌の名残だと思った。

夢である、それは夢であったのか。

ただの友人なのだと。
都合のよい解釈などしてはいけないのだと


自分に言い聞かせてきたこの数年。

 

その数年の鬱積が、都合のよい夢を見せたのだと
言い切れない事もない。

 

けれど。

耳朶に残る、優しさと
背中に残る、温かさが


アリスにソレを迫っていた。
果たして、ソレは、正しいだろうか。

私は、間違いなく選べているのだろうか。
私が、行うべき、それは…長年、先延ばしにしてきた筈の、


『利口な選択』
 

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